DAO(Decentralized Autonomous Organization)は、日本語で「分散型自律組織」と訳され、スマートコントラクト技術を活用して、意思決定を分散化し、自律的に運営される新しい組織形態です。
DAOでは、多くの場合、参加者が保有するガバナンストークンによって意思決定に参加します。
この点は、株式会社における株主権と似ていますが、DAOの特徴はより透明かつ分散的な意思決定プロセスにあります。
今回、Xのくりぷとくりぷと.sui(@crypt0crypt0___)さんが「真のコミュニティとは何か」というテーマで投稿されていたので、その投稿の視点を中心に、DAOが抱える課題とそれをどう解決するかについて考察します。
なぜ、DAOにおいて”コミュニティ”は成り立たないのか?
DAOは多くの場合、明確な目的意識を持って運営されています。
地方創生や環境保全を目的とした大規模なプロジェクトから、匿名のメンバー同士で運営するDeFi(分散型金融)プロジェクトまで、規模や目的は多岐にわたります。
しかし、多くのDAOは運営が難しく、コミュニティとしての一体感が欠けていることが指摘されています。
くりぷとくりぷとさんは、コミュニティとは「自律的な協力関係を持つ集団」であると定義していますが、現状のDAOは「孤立した個人の集合体」になっているケースが多いのです。
孤立した個人の集合体とは、各メンバーが自己利益を最優先に行動する集団を指します。
DAOのガバナンストークンを保有する主な目的が、トークンを安く購入して高値で売却することに偏っているため、組織やプロジェクトの目的よりも、個人の短期的利益が優先されてしまうのです。
このように、DAOの一部では短期的な利益を追求する個人が多く、共通の目標に基づいた協力関係が築かれにくい傾向があります。
しかし、DAOには成功例もあり、例えばUniswapやAaveのようなプロジェクトでは、ガバナンストークンを持つ参加者が長期的なプロジェクトの成功を目指して協力し、コミュニティを支えています。
DAOがうまく機能するためには、メンバーが短期的利益だけでなく、プロジェクトの目的に共感し、協力してコミュニティ価値を高めることが重要です。
デジタルコモンズとしてのDAO
コモンズとは
「コモンズ」とは、共有資源や財産を意味し、誰でも利用できるものを指します。
物理的なコモンズの例としては、公共インフラ、道路、環境資源(河川や大気)などがあります。
これらの資源は、政府などの中央集権的な組織によって管理され、全体の利益を考慮した運用が行われます。
一方で、デジタルコモンズは、インターネット上で自由に利用できる情報、ソフトウェア、知識、そしてトークンなどを指します。Wikipediaやオープンソースソフトウェア、Web3プロジェクトで生成されたデジタル資産がその例です。
DAO自体も、デジタルコモンズの一部を構成しています。
DAOが持つ技術や知的財産、そしてコミュニティの協力を通じて生み出される価値が、デジタルコモンズとして機能するのです。
コモンズの悲劇
「コモンズの悲劇」とは、共有資源が過剰に利用され、最終的には枯渇してしまう現象を指す経済学の概念です。
これをデジタルコモンズに適用すると、物理的資源の枯渇とは異なるが、管理不足や協力の欠如によってデジタル資源が価値を失うリスクがあります。
DAOにおいても、以下のような「デジタルコモンズの悲劇」が発生し得ます:
- 貢献の欠如:多くのメンバーが自分の利益を最優先に行動し、プロジェクトやデジタル資産を維持・発展させるための貢献が不足する。
- プロジェクトの価値低下:メンバー間の協力が欠如することで、プロジェクト全体の価値が維持できなくなり、コミュニティ全体が衰退する。
例えば、オープンソースプロジェクトでメンテナンスを維持する人が不足すると、ソフトウェアが更新されず、結果としてその価値が低下することがあります。
DAOも同様に、協力するメンバーが減少することで、プロジェクトが停滞し、結果的にトークンの価値やコミュニティの維持が困難になるのです。
スタートアップ初期段階との類似性
DAOが抱える「孤立した個人の集合体」という問題は、スタートアップの成長過程で直面する課題と似ています。
スタートアップの初期段階では、創業メンバーの情熱やビジョンに共感したメンバーが集まります。初期のメンバーは自己の利益に最も主軸を置いた働き方ではなく、創業者のミッションに共感し、協力的に働くことが多いです。
しかし、組織が拡大すると多くの人員が必要となります。その組織の仕事は細分化されて、マーケターや専門職といった役職を持ったメンバーが入ってくるようになります。
すると、徐々に働くモチベーションが役職や給与などの社会的・経済的な報酬に変わり、協力意識が薄れることがあります。
DAOも同様に、初期段階では理想に基づいてコミュニティが形成されますが、トークンに対する経済的な動機が増えると、協力関係が薄れ、コミュニティの持続性が危ぶまれるのです。
スタートアップと異なるDAO特有の課題
DAOはスタートアップと異なり、以下の特有の課題を抱えています:
- 匿名性:DAOのメンバーは匿名で参加することが多く、顔を合わせたコミュニケーションがないため、スタートアップ企業と比較して信頼関係を築くことが難しい。
- 文化的・言語的な違い:DAOはグローバルなメンバーによって構成されるため、文化や言語の違いがコミュニケーションの障害となり、協力が難しくなることがあります。
- 多数のメンバー:DAOには数多くのメンバーが参加し、それぞれの影響力が分散されるため、意思決定のプロセスが複雑になり、メンバー同士の信頼関係が薄れがちです。
これらの課題によって、従来のスタートアップで用いられるリーダーシップや組織運営のスキルが通用しにくくなり、コミュニティの協力関係を構築することが一層難しくなります。
DAOの構成員を協力的に変える
しかし、短期的利益を追求する個人がDAOに参加すること自体は、コミュニティの成長に必要な要素です。DAOが持続的に成長し続けるためには、メンバーの新陳代謝が不可欠だからです。
問題は、その個人をいかにして、自律的にコミュニティに貢献する協力的なメンバーに変えるかです。この解決策として、以下のようなアプローチが考えられます:
- 文化の形成と共有:創業メンバーやリーダーが、コミュニティの目的や文化を新規参加者に伝え、彼らがその目標に共感できるようなコミュニケーションを取ること。
- 選択的インセンティブの導入:協力的なメンバーに特別な報酬や権限を与える仕組みを導入すること。具体的には、DAOの貢献者に対してガバナンス権限、名誉、信頼のような社会的報酬を付与することが有効です。
選択的インセンティブによって、メンバーは「ただ乗り」するのではなく、コミュニティ全体に積極的に貢献しようという動機を持つようになります。
まとめ
DAOは、「孤立した個人の集合体」から、「自律的な協力関係を持つ集団」へと成長するために、参加者を協力者に変える仕組みが必要です。特に、選択的インセンティブや社会的報酬をうまく活用し、コミュニティ文化を形成することが重要です。
ネットコミュニティの運営スキルは、今後分散型社会においてより高い価値を持つでしょう。DAOが成功し、持続的な成長を遂げるためには、これらのスキルとインセンティブ設計が不可欠です。


